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MODEL STORY

タイトルなんてどうでもいい。 31日目:嘘つきの始まり

2020年5月7日

海外モデル契約90日

31日目:嘘つきの始まり

 

午前7時。

メイクさん:「この国に来てどれぐらいが経つの?」

スタジオのメイクルームで私の髪の毛を整えながら話しかけるメイクさん。

今日はブランドの新コレクションのカタログ撮影。

私:「今でちょうど1ヶ月です。」

海外モデル契約が始まり1ヶ月が経った。

メイクさんが私を変身させている間、椅子に座りもの凄い勢いで過ぎていったこの1ヶ月を振り返る私。

モデルたちの美しさに圧倒されるところから始まり、スリーサム男、公開処刑、美男美女パーティー、時速150キロの車、謎の湿疹、モデルたちの複雑な恋愛事情、私のイメチェン、空港全力ダッシュ、100人態勢の撮影、愛犬との別れ、氷点下の中でのTシャツ撮影、呪われたモデル、オーディションで喧嘩するモデルたち、気絶した女、血を吐く男、パンツ一丁男、病院から逃げ出す患者、そしていつの間にか付き合っているルームメイトたち……

 

内容度が濃すぎる…。

日本では経験したことないことだらけで、いつの間にか私はおかしな人間たちに囲まれている。

 

1か月前の、何も分からないまま海外のモデル界に飛び込んだ自分が初々しい。

その時の自分に一言言いたい。

自分よ、心構えはできているか?

想像を遥かに超えてくるものになる…

 

そして後の2ヶ月はどうなるんだ。

きっと90日間の契約を終えた自分は今の自分に言ってやりたいって思っているのかもしれない。

自分よ、心構えはできているか?

ここから更に過酷になるぞ…

 

 

先が思いやられる。

 

まぁいろいろとあった1ヶ月だったけど、思い切った選択の連続のおかげで私は順調に仕事を取り始め、今では「○○事務所のショートの子」として業界で顔が覚えられていて、アパートのモデルたちの中でもまさかの私が一番忙しい状況。

 

○○事務所のショートの子。

身長ではなく、髪の毛の話であってほしい。

 

そしてここぞとばかりにブッキングの絶えない私のスケジュールを詰めてくる事務所。

午前中にオーディションが終わり、そのまま撮影に直行したり、

撮影が終わったらまたすぐに違う仕事のフィッティングに行ったり、1日に撮影が2本入ったりと、この1週間もの凄いハードスケジュールをこなしている。

疲労も蓄積されていて、そろそろ休みの日があってもいいんじゃないかって思っているけど、

これまで仕事がないと悩んでいた私からしたら今の悩みはかなり贅沢なもの。

人間は本当にないものねだりをする生き物なんだな。

私だけかもしれないけど。

 

メイクさんがそのまま話を続けた。

メイクさん:「私ずっとあなたと仕事がしたかったの。初めてあなたの写真を見た時に、この子のヘアメイクを絶対したいって思って。」

 

なんて嬉しい言葉なんだ…!

輝かしい誉め言葉。

 

公開処刑の屈辱にも意味があったんだよ。

トイレで隠れて日々練習したセクシーダンスが結果として表れているんだよ。

棒読みの演技を何回もオーディションで披露したけど、そんな下手くそな演技でも業界の人たちは私のことを覚えてくれてるんだよ。

 

********************

夕方、今日もなかなか過酷な撮影だったけど私は朝言われた言葉が嬉しくて特に過酷さは気にならなかった。

撮影が終わり自分の服に着替え携帯を見ると、ちょうどルームメイトの美女から連絡が入っていた。

リアルバービー:「今日はお祭りがあるらしくて、みんなで行くからカリナも撮影終わったらおいでよ!」

 

海外契約でいろんな国を転々としているモデルって大体インスタグラムを見たらすぐ分かるもので、

各国のイベントや観光名所の前で写真撮っていたり、いかにも海外で仕事してますよ感が出ている写真をあげていたり、

それを大学生だった私は日本から眺めながら、

あ~この子海外で契約いっぱい取ってるんだ~また違う国行ってるんだ~って羨ましい気持ちでいっぱいで、

正直私もそういう写真を撮ることに憧れていた。

で、実際に自分も契約をとってルームメイトたちと観光地や現地のイベントに行って気付いた。

モデルたちと観光巡りをすることほど面倒なことはない。

10歩進んでは写真を撮らされ、また10歩進んでは立ち止まりポーズを取るモデルたち。

次は私の番、次はここで撮って、をお互いに繰り返し全く前に進まない。

「この角度は嫌」だったり「これは表情が変」だったり

100枚200枚って撮った中から結局インスタにアップするのはたったの1、2枚。

モデルの彼女がいた男友達に言われたことがある。

「彼女と付き合っていて、途中から俺は彼氏なのかフォトグラファーなのか分からなくなったよ。」

モデルと付き合ってみたいと思っている男性諸君よ、

現実はきっと思い描いているものとは違うんだよ。

モデルの彼氏は本当にいろいろと大変だと思う。

 

そんなことを考えながらスタジオを後にする私。街は既にお祭りモードでかなり活気が溢れていた。

とりあえず撮影も終わったし折角のお祭りだし、疲れているけど顔出すだけでもしようかな。

伝統的な楽器を鳴らしたバンドたちがそこら中にいて街中パレード状態で、30分後人混みの中なんとかルームメイトの5人と合流する私。

仕事を終えクタクタな私とは裏腹に、かなり気合を入れてきた美男美女たち。

全員どこから探してきたんだっていうような目がチカチカするコスチュームを着ていて、マフィアと侍はフェイスペイントもしているし、

リアルバービーはフリフリのミニスカートにブラが透けて見えるクロップトップを着て、イケイケのバービー人形になっている。

そして熱々カップルの2人は後ろで嬉しそうに手を繋いでいるし、

現地の人たち以上に目立っている5人。

パーティー文化強めの海外の人たちってこういう時の気合の入れ方が凄い。

そんな私たちを見た現地のパレード集団は踊りに誘ってきたり、腕を掴んでステージ上に引っ張り上げようとしたり、

流石にステージはって思いながら断るんだけど、全く空気の読めないテンション高めな現地の人たち。

その中で1人ノリノリな侍は自らステージに上がっていき、

言葉も通じないのに見事に現地の人に溶け込んで、何なら指揮を執って軽快なステップを踏みながらリズムを取っている。それを真似する現地の人たち。

一体どこで学んだんだその動き。

 

1時間ほど楽しんだ後、私はルームメイトたちを置いて、事務所に寄ることにした。

1ヶ月が終わったからステートメントがもらえる。

この日がどれだけ私にとって待ち遠しかったことか。

このステートメントの紙には、現時点で自分がどれだけ儲けているのか、どれだけ費用を事務所に返済出来ているのかという詳細が記載されていて、モデルたちにとってとても大事なもの。

順調に仕事が入っている今、このままいけばきっと契約2ヶ月を終える前に全額返済できるはず。

ってことは3ヶ月目は利益が出て、帰国する時にはちゃんと良い金額になっているはず。

 

無事マネージャーからステートメントを受け取り、アパートに1人帰りリビングの電気をつけて、ワクワクしながらその紙を開いた。

そして私は固まった。

 

ん…?

なんだこれ?

 

取った仕事が1つ1つ記載されているんだけど、どれも単価がやたらと低い…。

契約書上、事務所手数料は30%。

それに加え家賃などの生活費が引かれてるんだけど、事務所に返済しないといけない費用がまだほとんど残っている…。

大きな仕事もいくつか取っているはずなのに、その単価も想像以上に低くて、

これじゃあ利益どころか、契約が終わる頃にまだ費用すら全額返せない。

おかしい…。

山の様に残っている借金を見て、返済が果てしなく遠く感じる。

モデルの仕事の単価は国の物価に比例していることが多くて、世界的に見て物価が高い東京はモデルの仕事単価も高い方。

それと比べたり現地の物価を考えたり、リビングに1人突っ立ったままいろいろと計算する私。

やっぱりどう考えてもステートメントに記載されている数字がおかしい。

 

 

これ……絶対間でもっと抜いてるだろ。

 

モチベーション:

★★★★★5

ピュア度

★★★★★5

事務所への不満:

★★★★★★★★★9

このストーリーは実話に基づいています。

目次

ステートメントの説明エピソード↓

タイトルなんてどうでもいい。 9日目 鬼の契約システム

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「タイトルなんてどうでもいい。」第一話目↓

【モデル界裏話ストーリー】「タイトルなんてどうでもいい。」1日目 美女たちとのご対面

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