海外モデル契約90日
24日目:嘆く男たち
腰近くまであった長い髪を耳の下までバッサリ切り、
清楚派モデルから個性派モデルへと、見事な大変身を遂げた私。
いやいや髪型変えただけで大袈裟だろって思うかもしれないけど、
モデルにとって髪型を変えることはリスクが大きいから一大イベント。
私が人生で一度もここまで髪を短くしたことがないから驚いた人が多かったけど、身近な人たちはみんな、
お~いいじゃん!って良いフィードバックをくれた。
まぁ悪いフィードバックは流石に直接本人には言えないんだろうけど。
中には「私も本当はショートにしたいんだよな~」って羨むモデルも結構いて、
みんな意外と契約の縛りに苦しんでるんだな。
事務所も諦めたのか、切ってしまえば意外とすんなりマーケティング方針を変えてくれて、
私は知っているフォトグラファーをあたり、新しい写真を集めるために急いでテストシュートの準備を始めた。
普通は事務所がテストシュートをセッティングしてくれるんだけど、
マネージャーたちは何かと行動が遅いことはもう分っていること。
事務所を頼りにしていたらきっと契約期間が終わってしまう。
限られた期間の中で少しでも結果を出すためにも
インスタグラムで腕の良いフォトグラファーを探し、メッセージを送りまくる私。
で、早速インスタグラムにもショートヘアの写真をアップした。
キャプション:「髪短くなりましたー!」
上機嫌で載せる私。
10分後、男たちからの批判を全力に浴びる私。
まさかの
男たちからの
バッシングの嵐で
全く知らない海外の男たちから次々とコメントやメッセージが届いて、ここぞとばかりに批判をしてくる。
「何で切ってしまったんだー!」
「ロングの方が絶対似合っていた。」
「お前は大きな過ちを犯した!」
「失敗作だ!」
「オレは悲しいよ…」
「なんでだーーーー!!!」
「(泣く絵文字)+10」
自分のことのように哀しむ男たち。
私に会ったこともない人たちが画面の向こうで悲しんでいる。嘆いている。苦しんでいる。
デジタルがもたらす力は凄かった。
中には、「なぜ私がロングが似合うか」の理由付けを書いてきて、説得しようとする人もいた。
エッセイかい。
200字にまとめてご提出ください。
でも見て分かる通り、私もう切っちゃったんだよな。
何に対しての説得なのか私にはもはや分からない。
届いたメッセージを英語でそのまま言うと、
「No~~~~~~~~!!」
だったり
「Sad~~~~~~~~!!」
だったり
「オーマイガーーーーーーッド!!!(泣く絵文字)」✖男50
彼らは神に何かを一生懸命訴えている。
必死に何かを伝えようとしている。
私の髪の毛は凄いパワーを持っていた。
まぁ~~~~その後も好き勝手言ってくれて、
リアルに海外男性100人近くから謎のバッシングを受ける私。
いきなりエンゲージメントが上がって、プチ炎上状態で、インスタグラムも驚いたと思う。
アナタタチ、
ヒトツ、言イタイ、コトガアル。
他の写真ではコメントなんかくれたことないだろー!
どこから湧いてきたんだー!
関西のスポーツ観戦でよくあることなんだけど、
自分の好きなチームが勝っていて良い方向に試合が進んでいる時は調子よく応援して、
負けそうになると、観客席から怒った監督がいっぱい出てくることがある。
おっちゃんファン1:「お前もっとこうやろ~!!」
おっちゃんファン2:「右行け、右~~!!」
おっちゃんファン3:「なにしとんね~ん!!」
おっちゃんファン4:「センターさっさと動けや~!!」
おっちゃんファン5:「ちゃんとボール見ろや~!!」
おっちゃんファン6:「ちゃっちゃと動かんか~!!」
立ち上がり、舌を回しながら大声で届かない指示を出すおじさま方。
ヤクザも驚くんじゃないかって言うぐらい罵声を飛ばす、本物の監督より熱がこもるおじさま方。
それでまた点を取り出したら、
俺のおかげだと言わんばかりに
満足そうに席に落ち着く、一仕事終えたおじさま方。
それを思い出した。
こんな私にもファンなのかエセファンなのか監督なのかお父さんなのかよく分かんないけど、見てくれてる人たちがいたんだな。
そして女子たちよ、
なんだかんだ言ってロングヘアってやっぱり男に人気なんだよ。
俺はショート派だよ、とか女の子の髪型は特にこだわらないよって爽やかに言う人もいるけど、そんな男に騙されてはいけない。
きっと心の奥底で無意識にロングを求めていて、
インスタグラムとかフェイスブックに載せる、ロングヘアをなびかせた私の水着ショットは何よりもエンゲージメントが高いんだよ。
これが避けられない現実なんだよ。
そんな嘆く男たちの声を聞いた後だったけど、私は特に何も感じなかったというか、
モデルとしての戦略もあって切ったし
自分が一番気に入っていたし、身近な人たちが良いって言ってくれたからか、
彼らの声は残念ながら私の心には一ミリも響かなかった。
監督たちよ、気持ちだけ有難く受けっとっておこう。
女子たちからはもの凄くいいフィードバックを頂いた。有難い限り。
だから、ポジティブに捉えることにした私。
炎上って良いって聞いたこともある気がする。
背の高い美女たちと一緒にオーディションに行く時もほとんど会場にはいないショートヘアのモデルだと
インパクトもあるし、パッと覚えてもらえるはず。
もう風が通ったなんか言わせない。
声しか聞こえないなんて言わせない。
「見下げてごらん?」も言わなくていい。
私、カリナは、
新喜劇を卒業します。
ダメだ、身長は変わってないんだったわ。
モチベーション:
★★★★★★★★★★★★12
ピュア度:
★★★★★★★★★★★★12
嘆いた男の人数:
★★★★★★★★★★+100
このストーリーは実話に基づいています