海外モデル契約90日
28日目:連絡が途絶えたモデル
午前10時半、極寒の山奥から無事生還した私と同じ部屋のモデル2人。
命がけのロケが多すぎる。
「お帰り~。」
ダンディーとマフィア子分がリビングでテレビを見ながらくつろいでいた。
リアルバービー:「もう散々なロケだったよ~!」
荷物を置きに一旦ベッドルームに行き、早速どれだけ酷い撮影だったかを愚痴る私たち女。
いつもながらそれを渋々聞かされる男たち。
シェアハウスの男たちも大変だな。
みんなが話している中、アパートを見渡しふと思った。
侍の姿が見当たらない。
私:「あれ?侍は今日は仕事?」
マフィア:「さぁ~そういえば朝から見てないな~。」
昨日は珍しくモデルナイトにも行かなかったみたいだけど、朝起きた時点で既に彼は部屋にいなかったとか。
あんな自由人のことだから、きっとどっか1人で行ってるんだろうけど、
とりあえず彼にメッセージを入れておいた。
メッセージ:「今日撮影行ってるの?」
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午後、私はまた違う仕事のフィッティングが入っていて、ドライバーに会場まで運転してもらった。
戦略として髪をショートにしたことと、世界的に放送された動画の影響もあり、徐々にオーディションなしでも仕事が入り始めて、
ショートヘアのモデルを必要としているクライアントや奇抜なルックスのモデルが必要な案件を貰い始めていた。
仕事が入ったことはもちろんだけど、オーディションという公開処刑に行かなくていいことが更に嬉しい。
何時間も車に乗ってオーディション会場に向かいながら、
今日も一日を無駄にしている、と考えなくていいのはもっと嬉しい。
指定された住所に到着し、今回のフィッティングはスムーズに進み、
というか普通はそうなんだけどな、
また車に乗ってアパートまで戻る私。
車の中で携帯を何度かチェックしたんだけど、今だ侍からの返事はない。
おかしい…
いつもだったらすぐ返事来るんだけどな。
何か違和感を感じる。
午後3時、アパートに着き、他のモデルたちに侍が戻ったか聞いてみた。
ダンディー:「まだ見てないな~。」
料理を一緒にしたりリビングで騒いだりと、何とも呑気なルームメイトたち。
その後も待ってみたけど、5時になっても返事がなく、流石に少し心配になる私。
絶対なんかおかしい。
午後6時を過ぎ、やっと私の携帯に彼から連絡届き、
携帯画面に通知が表示された。
通知:写真を受信しました。
一枚の写真のみ…。
それを開いて、写真を見て、リアクションに困る私。
薄暗い部屋で1人、病院の患者用の青い服を着て、ベッドで点滴を打たれている侍のセルフィ―。
そしてなぜか全力の笑顔。
どういう状況なんだこれ。
とりあえず病院にいるみたいで、
どういう流れで点滴を打たれることになったのかは全く分からないけど、すぐに電話をかける私。
侍:「ちょっと入院になりそうでさ。」
電話越しでジョークを挟みながら元気そうに言う彼。
今からお見舞いに行くと伝え、最低限彼の必要になりそうなものを病室に持っていくため、
メンズのベッドルームに入って彼のクローゼットをあさり下着、服を何枚かと、パソコン、ヘッドホン、充電器などを鞄に詰め込んで、
リアルバービーと一緒に病院に向かった。
受付で看護師さんに案内され、病室のドアを開けると、
そこには、点滴を打たれながら嬉しそうに手を振る侍の姿があった。
病人なのかなんなのかが今だに分からない。
侍:「いや~まさかこんなことになるとはな~。」
そのまま笑顔で伝えてくる彼。
侍:「変な物でも食べたのか分かんないけど、朝方吐き出してさ、それでもう吐くものもないのに止まんなくてさ、途中から吐いてるものが血に変わったんだよね。」
完全にやばいだろそれ。
侍:「で、それで流石にこれはダメだって思って、何とか近くの病院調べて歩いて行って」
ネタのように伝えてくる侍。
侍:「そのまま、まさかの入院になっちゃってさ。」
そりゃそうなるだろな。血吐いてるもん。
看護師さんも、ワイルドな髪をしためちゃくちゃイケメンが
血を吐きながら病院に入ってきてびっくりだったはず。
侍が笑顔のまま続ける。
侍:「いや~久々の一人部屋、気分がいいよ。ずっとここにいたいぐらい。」
3人部屋が辛いことはよく分かる…。
でもこんな狭くて薄暗い病室には絶対1人では居たくない。
その後も呑気に話し続ける弱々しい侍。
1人ゆっくりできているみたいで何よりだけど、
オーディションといい、今日の件といい、君のメンタルは本当に凄いよ。
リアルバービー:「事務所にはもう伝えたの?」
侍:「言ったけど、仕事の話されたよ。」
海外から派遣してきている自分のモデルがこんな状況なのに、いきなり仕事の話…。
心はないのか…。
その後彼に鞄を渡して、私たちはまた歩いてアパートまで戻った。
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夜遅く、水を飲もうと思って1人キッチンに行ったら、玄関から物音がした。
みんな今日は家にいてるはずなのに、誰かと思って玄関を覗くと、
戦から帰って来たかのような、髪の毛ボサボサの弱った侍が立っていた。
退院にしては早すぎる。
侍:「入院費聞いたらもの凄い金額でさ、事務所には全部実費って言われたから、点滴外して急いで出てきたよ。」
逃げ出した病人…。
病院という名の戦場を脱出する侍…。
それよりも体調は大丈夫なのか?
侍のやりそうなことだけど。
そしてこんな病人に金銭面でプレッシャーを与える事務所。
心はないのか…。
特にお見舞いもなしだし、仕事の話やらお金の話やら、
いったい事務所は何を考えてるんだ。
モチベーション:
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★20
ピュア度
★★★★★★★7
事務所への不満:
★★★★★★★7
このストーリーは実話に基づいています。