海外モデル契約90日
30日目:モデルのギャラのリアル
中学生ぐらいに読んでた雑誌、1つ挙げるとしたら何が頭に浮かぶ?
モデルの私にとってそれはファッション雑誌だった。
多くのモデルにとって、載りたい雑誌が4つほどあって
世界的に有名なファッション雑誌で名前を言うと誰もが知っているようなもの。
歴史ある雑誌で、海外セレブや一流モデルたちが載ってきたもの。
その仕事をするとモデルポートフォリオがいきなり輝かしいものになり、オーディション時にもクライアントたちから見る目が変わることもあるらしい。
履歴書で言う「東大卒」だったり「外資系企業」だったり。
中身はともあれ、名前だけで自動的に良いイメージを持たれるものに近くて、駆け出しモデルの私たちにとってそれを成功の指標の1つとして見てる子も多い。
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午後2時。
リアルバービーとマフィア子分の2人は朝から撮影で、私はリビングのテーブルの椅子に座り、少し離れたソファーに座っているルームメイトの2人を眺めていた。
同じ部屋のイラン系超絶美女と、隣の部屋の最年長メンズ癒しの存在ダンディー。
この2人が仲よさそうに手を繋いで、見つめ合っている…。
いつから君たちはそんな関係になったんだい?
侍:「お~またイチャつくね~そこの2人。」
私の横の椅子に座っているコロンビア自由人イケメンの侍が嬉しそうに茶化す。
この前は他のルームメイト2人が酔った勢いでチューをしていたし、
血を吐きながら病院に行きそのまま入院したと思ったら、病室から逃げ出す奴もいるし、
本当に何が起こるか分からないモデルアパート。
そしてダンディーよ、良いチョイスだ。
モデルの中でもトップレベルに綺麗な、誰もが羨む美女と君は今一緒にいるんだ。
オーディションであらゆるイケメンの目を奪っている美女と君は今手を繋いでいるんだ。
流石ベテランのダンディーは見る目もベテランだった。
そしてまんまとそのベテランの甘いマスクに引っかかった最年少エキゾチック美女。
輝かしい。
そんなことを考えていると自分のベッドルームから携帯が鳴る音がして、私はすぐに取りに行った。
メッセージ:「雑誌の仕事が入ったわよ。体型管理しっかりしてね。」
いつも通りマネージャーからの連絡で、私が名前を聞いてもあまりピンとこない海外の雑誌かと思い、特に大きな期待はしてなかったけど、次のメッセージで思わず私は声をあげてしまった。
まさにあの、有名雑誌4つのうちの1つだった。
私がずっと載ることを夢に見ていたファッション雑誌。
中学生の時に本屋さんに行く度に立ち読みをしていたこの雑誌。
アメリカの高校時代も美容院に行く度に、もはや髪を切ることよりもそれを読むことの方が楽しみだった雑誌。
日本に帰ってきてからも本屋さんに足を運び、透明のフィルムでカバーがされて立ち読みが出来なくなっていたその雑誌。
そして私の、場所をとるだけだからと雑誌は絶対に買わないという信念。
あの透明のフィルム、いつから付けられるようになったんだっけ?
私が幼い時は読めない本なんて本屋さんになかった気がする。
マネージャーが続けた。
メッセージ:「特集で2ページ担当することになったわ。」
本当にあの雑誌のモデルができるんだ…!
しかも丸々2ページ…!
ソファーでニヤつきながらイチャつく美男美女と、ベッドルームで1人ニヤつきながら携帯を眺める私。
そしてニヤつく2人をニヤニヤと茶化す侍。
このアパートは今幸せに溢れているのかもしれない。
こんなに有名な雑誌だったらきっとギャラも高いはず。
もしかしたら3ヶ月分の給料ぐらいの金額になるんじゃないか?
契約開始時に事務所に負担してもらっている費用、この仕事1本で全額返せるんじゃないか私??
そこから更に知名度アップしていい仕事が入って、金銭面のプレッシャーから解放されるんじゃないか私?!
嫌らしいことを考えているとまたすぐ携帯が鳴って、悪い顔をした私はメッセージを開いた。
仕事詳細
日程:〇月〇日
場所:○○
現場入り:朝6時
ブランド名:○○
金額:ゼロ
.......。
へ……??
最後の欄で目が点になる私。
金額、ゼロ…?
………金額
ゼロ…?!
何度も頭の中で再生する私。
いやいや、世界的一流雑誌なのにそんな訳はない。
見間違いか?
マネージャーの打ち間違いか?
嘘かと思って何度も見るけど確かに数字はゼロで
どう頑張って見てもゼロはゼロ。
UNOをしてる時に9が欲しいと思っていて6を引いた時に、望む気持ちが強すぎて一瞬6なのか9なのかが分からなくなる経験は何度かあったけど、
ゼロはどう頑張ってもゼロな訳で
横にしても逆さにしてもゼロは相変わらずゼロで、
いや絶対マネージャーの打ち間違いだと考えながらそのまま返信し、金額が合っているかを再度確かめる私。
どうか打ちミスであってくれと願ったけど、
マネージャーからの返事は、素っ気ない一言だった。
マネージャー:「Yes」
いや~…
私の夢が3文字で壊されたね。
日本語で言ったら2文字だ。
ゼロって…。
そんなことあるのか…?
一気にテンションが下がって、ニヤつきコンテストから1人脱落者が出た。
そのテンションのまま、幸せいっぱいのリビングに行って、
負のオーラを出しまくる私。
なぜか私から一番遠くに座っているダンディーがそのオーラに気付き、私にどうしたか聞いてきた。
流石こういうところもベテランは違う。
ダンディー:「大手の雑誌の仕事は基本ギャラが出ないだよ。雑誌からしたら逆に、無名の俺たちモデルの知名度を上げるの手伝ってあげてるってぐらいだもんね。載れるだけで十分だろって考えなんだろうね。」
そういうことなのか…。
雑誌も毎月発行される中で、モデル全員に高い金額を払うと破産してしまう。
海外の場合、世界的に有名な雑誌でも9割以上のページがモデル費ゼロの国も多いらしい。
そりゃそうだよな。
実際それでギャラゼロだから、じゃあ引き受けませんか?って言われた時に、これだけ有名な雑誌だったらむしろお金払ってでも引き受けるだろうし、
こんな大きい仕事が入ったことは嬉しいけど、もやは大きい仕事の定義すら分からない。
世の中そんなに甘くなかった。
にしてもゼロって…。
3ヶ月分の給料どころか、うまい棒1本も買えなかった。
モチベーション:
★★2
ピュア度
★★★★★5
アパートのニヤニヤ度:
★★★★★★★★★★★★12
このストーリーは実話に基づいています。