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MODEL STORY

タイトルなんてどうでもいい。29日目:愛犬マックス

2020年5月1日

海外モデル契約90日

29日目:愛犬マックス

 

私:「お願いします。」

マネージャー:「ダメよ。」

 

この下り、前もあった気がする…。

 

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私が小学生のとある日、母が子犬を抱っこして家に帰ってきた。

耳がまだ垂れていて目もまだ青い状態で、ぬいぐるみみたいに抱っこされていたその子犬の姿は愛くるしすぎて、

まだ幼かった私は犬がずっと欲しかったから嬉しくて嬉しくてたまらなかった。

 

母:「人多すぎて、抽選やってん!」

奈良県の保護施設にいた子犬たち。

保護先が見つからない場合、殺処分になるという残酷な現実を突きつけられていた。

それだけは避けたいと市が里親の募集をかけたところ、犬を飼いたい人が殺到し、引き取られる犬の数よりも人の方が多くて抽選制になるという、何とも心温まる状況だったらしい。

そこで何とか犬を貰う権利を勝ち取る母。

うちの母はこういう時いつもやたらと運が強い。

母:「この子丸々してて可愛いやろ~!」

捨てられていた犬だから何犬かも分からなくて、

綺麗なゴールドの長くて柔らかいふわっふわな毛で体が覆われていて、北極でも生きていけそうな子だった。

子熊みたいやな~、から始まりクマを逆にして「マク」。そこから、アメリカ人の父も発音しやすいようにと何とか名前に繋げる私たち。

 

「マックス」

 

何とも無理がある繋げ方だけど、ペットの名前って意外とみんなそういうもんだよね。

世間的に犬はポチ、猫はタマ、みたいなのがあるけど、よく考えてみるとポチもタマも一体どこから来たのかが分からない。

まぁそんなこんなで名付られたマックスは、その日からうちの家族の一員として温かく迎え入れられた。

 

そのふわふわの塊は見る見るうちに大きくなっていくんだけど、

何犬かが分からないから、もちろん成犬時のサイズも分からず、

もうそろそろいいじゃないか、と成長を終えてほしいと願う私たち。

その後マックスは14キロまで成長し、10センチほどの長い毛が更に彼を大きく見せ、見た感じは小さい大型犬だった。

 

毛が密集しているマックスの体を洗うのは本当に大変で、皮膚までまず水が届かない。

濡れるとその柔らかい毛が水を吸収し、

あら、こんなにちっちゃかったのね?

と一回りも二回りも小さくなるマックス。

 

毛量のせいで、夏は暑すぎてぜーぜー言っていてエアコンを入れてあげないといけないし、

かと言って冬は、毛の密集で皮膚まで温度が到達するまで時間がかかるのか、なぜかいつも火傷するぐらいの距離でヒーターのど真ん前に座り、毛が燃えそうになっていた。

私たちがヒーターをどけてはその真ん前に移動し、どけては移動しを繰り返すマックス。

暑がりなのか寒がりなのかがさっぱり分からない私たち。

 

夏場暑すぎるからと長いゴールドの毛を散発してあげると、そのゴールドの毛は謎に根元にいけばいくほど黒くなり、散髪後は色をも変える犬。

染められたのか?

兄:「新しい犬?」

もやはうちの犬かどうかも分からない。

 

そのふわふわの塊はかなりの甘えたで、ひと時も私たちから離れようとせず、

母親の真横に座り、自分の体を密着させて夏場はぜーぜー言っていて、

母:「あんた、暑いんやったら離れたらいいんちゃうの?」

くっついている犬もくっつかれている母も暑い、誰も得しない時間が過ぎていく。

 

ソファーで寝転んでいる私の体の上に乗ってきて、そのまま伏せて寝るんだけど、

毛が密集している14キロに顔が覆われ、窒息しそうになる私。

もう少し伏せる位置を考えてほしい。

 

こんな謎めいているマックスと、小さかった私は兄弟のように、一緒に育ち一緒に大きくなった。

 

********************

3日ほど前、母から電話が入り、年のこともあり胃がんを患ったマックスの先がもう長くないことが伝えられた。

吐き続けていて体重も激減し、もう何も食べれない状態までになっていて、

母も最期の時が近いマックスの看病をし続け、この数週間で体重が減っていた。

 

私:「お願いです。帰国させてください。用事が済んだらすぐに戻ってきます。」

そんな愛犬に最後に一目会いたくて、朝一番に事務所に行き、一時帰国をお願いする私。

マネージャー:「明々後日入るかもしれない仕事はどうするつもり?」

入るかもしれないって、まだ決定すらしてない案件。

モデルの仕事は「キープ案件」がもの凄く多い。まだモデルの選考中で決定はしてないんだけど、決まるかもしれないという案件。

たとえそれが50%の確率でも10%の確率でもスケジュールをギリギリまで開けておかないといけないし、1週間毎日違うキープ案件で埋まっていて、結局1件も決まらず、何の予定も入れられない暇な1週間を過ごすことも多い。

仕事が決定した場合、今日帰国して、もの凄い弾丸にはなるけどすぐに帰ってこればギリギリ間に合う。

私:「明日は何もないはずです。」

マネージャー:「オーディションが入る可能性がある。」

いつもモデル100人態勢、15本行って1本受かればいい方という確率の、まだ入るか入らないかも分からないオーディションをここで出してくるマネージャー…。

連日仕事を取りだしている私をそう簡単に事務所は放してくれるわけもなく、

マネージャー:「私たちが負担している金額を今すぐ全額返金しなさい。」

海外モデル契約は、モデルの全スケジュールを事務所がコントロールする権限を持っているから、契約違反だと言うマネージャー。

ぎりぎりの直行便を取って帰るつもりだから渡航費もバカ高いし、それプラス数十万円の契約金。

そんなお金、駆け出しモデルの私にぱっと出せるわけがない。

何とも融通が利かない状況がもどかしくて、苛立ちだけが募る私。

仕方ないかもしれないけど、もう少し寛大な心を持っていたらダメとは言わなかったはず。

契約違反という切り札をこんなところで出さなかったはず。

無力でやるせない気持ちいっぱいの中、私は諦めてアパートに戻ることしかできなかった。

心配と不満の中1日が過ぎて行き、そのまま夜になり

ルームメイトの美女たちが寝た後もどうにか帰る方法はないのかとベッドで考える私。

考えても考えても答えは出ず、そのまま気付いたら眠っていた。

 

 

********************

朝8時、母の電話で起きた。

愛犬の意識が既にもうろうとしていて、

少しでも私の声が届けばと母がスピーカーフォンにし、電話越しに何度も名前を呼ぶ私。

数分後、そのままマックスは息を引き取った。

 

自分にとってもの凄く大事なものが、他人にとっては何ともなくて、

その価値を理解してもらって初めて自分の行動を決められる。

私は一体誰の人生を生きているんだろう。

 

母が電話越しに泣いていた。

 

モチベーション:

★★★3

ピュア度

★★★★★★6

事務所への不満:

★★★★★★★★★9

このストーリーは実話に基づいています。

目次

タイトルなんてどうでもいい。 第一話目↓

【モデル界裏話ストーリー】「タイトルなんてどうでもいい。」1日目 美女たちとのご対面

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